農産物の価格転嫁で問われる「原価の根拠」とは

農産物の価格転嫁で問われる「原価の根拠」とは

肥料も、箱も、運賃も上がりました。それでも売値は前年と同じ。

「言っても通らないだろう」

「関係が悪くなるほうが困る」

「どう切り出せばいいのか」

出荷先との価格の話は、後回しになりがちです。ただ、その前提は変わりました。

百一姓が見ているのは「値上げが通ったかどうか」ではありません。「その交渉のあとで、経営に何が残ったか」です。

価格協議に誠実に応じることが、努力義務になった

令和8年、食料システム法の取引適正化に関する措置が動き出しました。農林水産省によると、食料全般の取引を対象に、次の2つが努力義務として課されています。

  1. 持続的な供給に要するコスト等の考慮を求める事由を示して、協議の申出がされた場合、誠実に協議すること
  2. 商慣習の見直しなど、持続的な供給に資する取組の提案があった場合、必要な検討・協力を行うこと

実施が著しく不十分と認められる場合には、指導・助言や勧告・公表が行われます。執行体制として、本省と地方農政局等に「フードGメン」が配置されています。

あわせて、大臣が指定した品目については、認定団体がコスト指標を作成します。

令和8年1月30日現在の指定品目は、米穀、野菜、豆腐、納豆、飲用牛乳です。

制度はできた。ただし、動き出すのは申し出た側から

見落とされやすいのが、1つ目の努力義務の書き方です。誠実な協議が求められるのは「事由を示して、協議の申出がされた場合」。最初に動くのは売り手、農家の側です。待っていても始まりません。

そして、この「事由を示す」が関門です。「資材が上がって苦しい」では、事由として弱い。何が、いつから、どれだけ上がり、その結果1kgあたりの原価がいくらになったのか。ここまで揃って、ようやく協議の材料になります。

コスト指標は参考にはなりますが、業界の数字であって、自分の経営の数字ではありません。

米の卸売段階における費目別コスト。玄米1kg当たり、輸送費8.7円、管理費(人件費)5.1円など全11費目、合計38.0円

百一姓が「用意しておく」と考える4つの数字

では何を持っていくのか。百一姓では、次の4つを出発点と考えています。

  • 取引の単位に合わせた原価。1kgか、1ケースか、1俵か。相手が値段をつけている単位に揃える
  • 費目ごとの動き方。肥料が上がったのか、箱代と運賃が上がったのか。動いた費目を特定する
  • 比較の基準時点。いつと比べて、いくら上がったのか
  • 自分と家族の労働をどう入れるか

最後の1つは見落とされがちです。

経営者や家族の作業を0円として原価を組めば、原価は実態より軽く出ます。その数字で交渉しても、通ったところで手取りは増えません。

もう一点、費用は一律に増えるわけではありません。

箱代や送料、販売手数料は出荷量に比較的連動します。

一方、肥料や農薬、機械関連費、人件費の一部は、出荷量が増えてもそのまま比例するとは限りません。「売上が2割増えたから原価も2割」という置き方では、根拠になりません。

「通ったか」ではなく「残ったか」で見る

値上げが通っても、発注量を減らされれば手取りは前年を下回ることがあります。

ただし、逆の動き方もあります。

値上げの結果、注文量は減った。それでも、単価が上がったことによる利益の増え方が、数量が減ったことによる利益の減り方を上回れば、残る金額は増えます。数量が減ったという事実だけでは、まだ良し悪しは決まりません。

さらに、減った数量を前提に作付や出荷量そのものを見直せば、その品目にかかっていた費用も減らせます。資材も、収穫や調製の手間も、減った分だけ軽くなる。単価が上がり、量が減り、費用も減った結果、手取りが増えて繁忙期の負担も軽くなる。こうした組み替えもあり得ます。

単価だけを見ても、数量だけを見ても、判断はできません。年間を通して手取りと時間がどう動いたかで見る。それが百一姓の見方です。

交渉する以外の選択肢も、同時に持っておく

1.  取引の単位に合わせて、品目ごとの原価を出す

2.  直近で動いた費目を特定し、いつからいくら動いたかを整理する

3.  指定品目であれば、コスト指標を参照する

4.  そのうえで、事由を示して協議を申し出る

そして、交渉は唯一の手段ではありません。

出荷先を分けて1社への依存度を下げる。規格や荷姿を変えて、コストの出方を変える。条件が合わない取引は、量を絞る、あるいはやめる。

ただし、直売や契約栽培に切り替えれば必ず手取りが増えるわけでもありません。販路が変われば作業も資金繰りも変わります。

もう一つ、交渉の準備には時間がかかります。その時間を確保できるかも、判断材料です。

まとめ

制度が定めているのは「協議に応じてください」までで、価格を決めてくれるわけではありません。テーブルに何を持っていくかは、農家自身が用意します。

自分の経営では、1kgあたり、1ケースあたり、いくらかかっているか。その数字は、いま手元にあるでしょうか。

問うべきは「値上げが通ったか」ではなく、「その一年を終えて、手取りとキャッシュと時間に何が残ったか」です。

よくある質問(FAQ)

Q. 自分の品目にコスト指標がない場合、協議は申し出られませんか。

A. 指定品目以外でも、事由を示して申し出ること自体はできます。参照できる指標がない分、自分の原価をどこまで示せるかが、そのまま説得力の差になります。

Q. 価格の話をするうえで、法律上気をつけることはありますか。

A. 農林水産省は「コスト指標活用に当たっての注意点」として、活用の際に起こりうる法令違反の事例を公表しています。同業者と足並みを揃えて価格を決めるような行為は問題となり得ます。線引きは同資料でご確認ください。

Q. 申し出ても取り合ってもらえない場合は。

A. 努力義務の実施が著しく不十分と認められる場合、農林水産大臣による指導・助言や勧告・公表の対象となります。同省には情報受付窓口も設けられています。個別の扱いは公表資料をご確認ください。

自分の原価を取引の単位に落とし込んでおけば、その型は来年以降もそのまま使えます。

百一姓では、その最初の一回を一緒に進める無料体験会をご用意しています。

交渉の前に、自分の数字を手元に置いてみてください。

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